本来なら、口を通して世界と自分の関係を確認するなんていう課題はとっくに卒業して、より高度の発達課題に到達しているべきなのに、幼時に逆戻りしてしまった、というわけだ。
しかし、私たちはこれは「退行」ではないことを知っています。
なぜなら、私たちの関わっている老人の多くが、この「口唇期」にいるように思われるということだけで十分でしょう。
「口唇期」とはヒトの発達の、ある段階に登場する1時期ではなく、人間が世界との基本的信頼関係を失ってしまうような危機に登場する、人間の在り様の1つなのです。
だから、私はこれを「退行」と呼ばず、「回帰」と呼びたいと思う。
精神分析は個人の問題を、過去の人間関係、特に母子関係に求めようとする。
そしてそれを意識化し、言語化することで解決しようとする。
しかし、老人たちの"異食"を、「口唇期」への「退行」として、生後1年半までの母親の育て方に問題があるのではないか、と考えたところで、何の役にも立たない。